ニッチの語源と使われ方

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「ニッチ」は今では普通に使われる言葉となっていますが、一般化したのはわりと最近のことです。今では競争者のいない隙間市場を意味するビジネス用語としての使われ方が広まっていますが、本来は進化論の研究過程から出てきた生物学の用語で、それより以前は単に像や装飾品を飾るため壁面に設けたくぼみのことを指していました。

壁のくぼみを意味するニッチという言葉が、今日わたしたちが使う競争者の居ない隙間という意味のニッチに変わったのは、英国の動物学者チャールズ・エルトンの学説がきっかけです。1900年にマンチェスターで生まれたエルトンはオックスフォードに学び、1927年に「動物の生態学」という一冊の本を執筆します。この本でエルトンが生態的地位を意味するニッチという概念を提案し、数十年をかけて私たちが普通に使う言葉になりました。

言葉の常で、長い時間をかけ使用範囲が広がるうちに意味に差異が生じています。

ビジネスにおいてニッチという言葉を使った時、それは競争者のいない、または少ない市場のことを意味しています。例えばファーストフード市場には強力な競争者がひしめいていますが、メニューを産直有機野菜のみにして価格帯を高くして、そのかわり1日の客数がそれほど多くなくても利益がでるような分野に特化すれば、大手チェーンと競争しなくてすむ。大手は市場規模の小さなジャンルには進出してこないので、小さな会社でもニッチ市場に特化することで生きていける。今日、ニッチという言葉で一般的に私たちが思い浮かべるのはこちらの隙間市場の意味ではないかと思います。

生物学においては、ニッチというのは競争のない隙間だけを意味しているのではなく、大小を問わず生息環境において占めている地位を意味しています。木の実がなる森林があればその実を食べる生物がいるわけですが、その生物がその実を食べることができる地位そのものをニッチといいます。木の実といっても、木にぶらさがっているうちに食べる動物と、木から地面に落ちてから食べる別の動物がいるなら、それは別のニッチを占めているという言い方になります。木にぶらさがっているうちに食べる方が量が多く、地面に落ちてからは少なかったとしても、少ない方だけがニッチではない。大小を問わず両方ともニッチというのはそういうことです。

ビジネス用語では小さい方の市場だけがニッチという扱いでしたので、そこのところが異なっているわけですね。

グーグルで「ニッチ」を検索したところ、Wikipediaでは「ニッチ」と「ニッチ市場」が別の項目として存在していて、はてなキーワードの「ニッチ」は生物学とビジネス用語の両方の意味で、三省堂辞書サイトでは「ニッチ」をビジネス用語としてをメインに、生物学はおまけとして解説していました。3サイトとも書いてあることが微妙にずれていて、はてなキーワードでニッチの意味はぶれているとしているとおり、現在もニッチという言葉は変化中のようです。

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